リスクヘッジの仕組み

Pocket

物事は常に変化し、経済や市場に出回る価格も常に動き続けている。ここに「リスク」がある。例えば、ある商社が商品を作るのに「原油」を必要とした場合、原油価格の変動は「生産リスク」として認識される。

こうしたリスクをなくすことはできない。しかし、先物市場で逆のリスクを取ることで“軽減”はできる。一例を挙げよう。

3カ月後に原油を必要とする商社があったとする。現在、原油価格は1バレル100ドル。しかし、3カ月後には価格が高くなりそうだと考えていたとする。

その場合「3カ月後が受渡日となる先物」の買い契約をすればよい。予測どおり、価格が上昇して120ドルにでもなっていれば、今度はこの先物を売って「20ドル分」の差益を出すことができる。

この商社は、実際には現物の原油を1バレル120ドルで仕入れなければならない。しかし、先物を売って「20ドル分」の利益を出しているので、相殺して実質100ドルで調達できるわけだ。

簡単にいえば、原油価格が上昇するリスクを軽減できたことになる。このように、価格変動のリスクを先物で回避することを「リスクヘッジ」と呼ぶ。

では、予測が外れて価格が下降して90ドルになっていればどうか。買った先物は「10ドル分」の損失を出してしまった。しかし、現物を「10ドル分」安く買うことができる。したがって、実質100ドルで調達したことになる。つまり、先物によるリスクヘッジで調達コストを前もって計算できたわけだ。

このように先物の買い契約をして「将来の値上がりリスク」を回避することを「買いヘッジ」という。

一方、先物の売り契約をして「将来の値下がりリスク」を回避することを「売りヘッジ」という。

例えば、ある石油精製会社が、あるガソリンスタンドと来月ガソリンを売る約束をしたとする。現在、ガソリン価格は1キロリットル4万円。しかし、来月には価格が下げてしまいそうだと考えている。

その場合、来月が受渡日の先物契約を売っておけばよい。あくまで受渡は来月だから、ガソリンを今用意しておく必要はない。

1カ月後、予測どおり価格が下げて3万5000円にでもなっていたとしよう。実際の現物の受渡では1カ月前よりも5000円分安く売らなければならない。しかし、先物の売り契約を決済することで「5000円分」の利益を出すことができる。つまり、値下がり分の損失を相殺できるわけだ。

  • 先物取引所

また取引所も、ある種のリスク軽減機能を担っているといえるだろう。

取引所とは、要するに「皆が一堂に会して原油やガソリンなどの売買をする場所」「ルールを持った“プレーグラウンド”のような場所」といえる。もし取引所がなかったら、原油を売りたい業者は、自分の思う金額を出してくれる消費者に出会うため、全国を歩き回らなければいけないことになる。

それは、消費者も同じである。いつも「安く売ってくれる売り手はどこにいるのか…」と全国を転々とすることになる。

 いつでも売れる場所があること、またいつでも買える場所があるということは、産業に従事するものにとって大変な時間的・金額的リスクの軽減になるのだ。

  • 証拠金とレバレッジ

先ほど述べたように先物、特に商品先物には「悪いイメージ」がつきまとう。「“豆屋”に身ぐるみはがされた親戚がいる」という人も多いのではなかろうか。先物のイメージが悪い最大の理由は、結果的に商品先物の営業マンが「証拠金」というシステムを“乱用”して「手数料稼ぎ」に走ったところにある。

では「証拠金」とは何か?

普通、スーパーで買い物をするとレジで代金の「全額」を支払う。現物を買ったときは、ローンによる分割にしろ、最終的に全額を支払うことになる。

ところが、先物取引の場合、総代金のたった数パーセントの金額を“担保”として差し入れれば、売買ができる。なぜなら、実際の受渡は「先のこと」だからだ。

つまり、小額の担保金で、その何十倍もの金額の取引ができるわけだ。この担保金のことを「取引本証拠金」と呼び、この仕組みを「レバレッジ取引」と呼ぶ。

レバレッジとは「テコ」のことだ。支点と力点と作用点を組み合わせることによって「小さな力」で「普通では動かせない大きな(重い)もの」を動かすことができる。

例えば、500円を証拠金として差し入れれば、1万円分の先物を取引できたとする。そこで1万円分を買ったところ、その先物はその後1万2000円に上昇したとしよう。ここで売れば2000円の利益が出る。証拠金の4倍もの純利益である。

ただし、ハッピーエンドだけの相場は存在しない。その先物が9000円に値下がりすれば、1000円の損が出ることになる。つまり証拠金を飛ばして、さらに500円の損失を出しているわけだ。

これが「先物はハイリスク・ハイリターン」といわれるゆえんである。レバレッジ効果によって小額の元手で多額の利益を見込める一方、「ひと財産を失う可能性を秘めている」のである。

もっとも「先物」は悪でもなければ善でもない。ひとつの“道具”だ。包丁で人をあやめる犯罪者がいるからといって、この世から包丁をなくせばよいというわけではないのと同じである。

要は「使い方」なのだ。先ほど述べたように、先物はリスクヘッジの道具として有効であり、ヘッジが機能するためにはその注文を受け止める多種多様な参加者が多く集うべきである。

もちろん、包丁が便利だからといって、やみくもに使ってよいわけではない。正しい使い方、誤ればケガをすることを知っておく必要がある。

実は、先物のイメージを悪くしている最大の理由がここにあるのだ。それが、一部「商品取引員」の営業姿勢である。商品取引員とは、一般個人の注文を商品取引所につなぐ法人(ブローカー会社)のことだ。

株式同様、個人が商品取引所に直接発注することはできない。商品取引員に口座を開設して、注文を仲介してもらう。そして取引が成立するたびに商品取引員に「仲介手数料」を支払う。

これが取引員の利益になる。つまり、顧客とその取引回数と取引量が増えれば増えるほど、商品取引員の利益は増えるわけだ。そのため、新規顧客の開拓に力を入れ、無理にでも取引をすすめがちとなる。

特に、ひと昔前は、取引員の営業マンによる強引な勧誘がまかりとおっていた。言うことは決まりきっている。

「あのニュースをご覧になりましたか? 原油を買うなら、いまがチャンスです! 買いましょう!」

「営業」という性格上、毎日の売上を伸ばすことが“至上命令”となりやすい。特に業界(監督官庁や自主規制団体を含めて)にムラ意識があり、規制が緩いと、至上命令を達成しようとするあまり、一般的な倫理(モラル)はすべて“屁理屈”で処理されがちである。

つまり、誤ればケガをすること(レバレッジ取引のリスク)についてロクに説明しないまま「ハイリターン」の儲けの部分だけを強調して、顧客に無理な過当売買を強いる営業マンが横行していたわけだ。リスクについて説明したら顧客が慎重になってしまい、「気前良く」売買してくれない。

手数料を搾り取るだけ搾り取って顧客が大怪我をしたら、別の顧客を探してくればよい。こうして“結果”を残した営業マンが出世をしてしまう。したがって、部下も目先の利益だけを追ってしまうことになる。

しかし人間、悪い記憶は後まで残る。過去に「営業マンの言いなりになって大損を出した話」が、人から人に受け継がれた結果、現在でも“業界の評判”として根付いているのである。

現在では法整備によって勧誘規制が強化され、またインターネットによって開示される情報が増えたことで、悪いイメージも薄れてきている。当局の姿勢も厳しくなり、業者もかなり淘汰され、真面目に勉強をしている営業マンも増えてきた。

また、近年急速に進化している「ネット取引」ならば、売買判断をするのは自分だけであり、低コストの取引が可能である。

こうした“健全化”が日本の商品先物業界の衰退を招いたという指摘がある。しかし、それは見当違いもはなはだしい。最大の問題は、それまで業界に確たる「理想像」がないまま、ずるずると小手先の対応に終始したことである。

確かに、当局は「今後の商品先物市場のあり方について」とビジョンを立てている。しかし、その当局にも自らを解体してまでの強い志があるとは感じられない。

日本の商品先物市場が世界経済の「道具」としてどのようの利用されるのが理想的なのか考えるべきときにある。

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


お知らせ

登録されているお知らせはございません。

ページ上部へ戻る